合意なき離脱がもたらすもの (魔術師 奥村)

新年になって成人式が終わる事から、大相撲は初場所がスタートします。
今年それほど盛り上がっていないのは、横綱が一人減ったせいもあるでしょう。

いったん横綱になると番付けは下がらないのですが、責任ある立場ということで負け超しは許されません。引退あるのみです。

大関以下、三役、平幕は、負け超しは許されます。
その代わり、負け超すと、どんどん番付けが下がり給料も下がってゆきます。

実に厳しい競争の世界です。

数少ない横綱が、しかも久々の日本人の横綱が土俵を去ってゆくことは寂しいことです。

ところで、このニュースは、ブレクジットが最も望まれない’合意のない状態で’英国がEUから去ってゆくことが決定的になったニュースと同じ日でした。

驚いたことに、ブレクジットのニュースは、殆ど報道されませんでした。
報道されたものは、淡々とした事実の報告だけで、今後に注目しましょうというだけです。

「 合意なく離脱すると、どうなるのか? 」

という内容に踏み込んだものは(私が番組表で調べたり、実際に番組をみた限り)ありませんでした。

合意ない離脱が、どのような影響をもたらすのでしょう?

欧州市場で仕事するには、EUのどこかに本拠地を構えれば、EU加盟国全てでアクセスが認められる(単一アクセス)ルールがあります。

銀行業務、輸出入業務、製造業務、全ての業種でこれが適用されていますが、英国がEUを抜けたとたん、EU非加盟国になります。

許認可業務である金融などは、EUで許認可を取る必要があります。まぁ、この程度であれば、事前に準備できる範囲なので、そう問題は起こらないと思います。

EU圏で行われている経済見通しは、全て、「英国はEUと合意して離脱する事」を前提としています。脳天気な前提ですね。

合意ない離脱は、この前提を崩す事になります。
いろいろな経済指標の今後の予想は見直されるでしょう。
そして、その見直しは、悪い方向に修正されることになるでしょう。

ただちに受ける影響でもないですが、ボディブローのように市場のセンチメントに効いてくるでしょう。

直接に一番影響を受けるのは今まで取り引きされていた、今は有効な金融商品、特に派生(デリバティブ)商品です。

欧州で取引されるデリバティブ商品は、一日1.5兆ドル(OTC商品、BIS発表値よりTrioAM推測)に上ります。

この取引の大半は、英国で取引されるのですが、英国のシェアは75%であり、総額40兆£(5600兆円)が取引され、決済あるいは清算されています。

商品を清算するにはEUが認可した精算所(クリアリングハウス)で行う必要があり、その多くはロンドンにある精算所で行うことがデリバティブ契約に記されています。

それが、英国がEUから’合意なく’外れると、このデリバティブ取引の契約は3月29日以降無効になり、精算できなくなります。

こうした理由から、イングランド銀行(Bank Of England,日銀に相当する英国中央銀行)は、40兆£の契約が無効になると警告しています。

2008年のリーマンショックでは、この時のサブプライムローンの残高は1兆3千億ドル、当時のレート(1ドル108円で 140兆円)でしたから、今回の方がその40倍も大きな残額ということになります。

今回は、法的な処理が宙に浮く、というだけで、リーマンショック時のような不良債権の問題ではありませんから、資金投入なく合理的な解決ができるはずですが、解決できないリスクもあるし、少なくとも混乱は起こる、ということになります。

モノの問題も大きなものです。

たとえば、欧州でロンドンに拠点を構える日本の会社は千社を超えます。
本社の事務所だけなら既に’念のため’フランクフルトやパリに拠点を移している会社は多いのですが、本社機構全体を移した会社はほとんどありません。

本格的に引っ越しをすると、一定期間の業務停滞があります。引っ越し費用だって結構な額になるでしょう。英国にも機構を残すとなると費用がダブルでかかるでしょう。

日産のように英国に工場を持っている会社は、設備を簡単には移動できないでしょう。火事にあった時のように、臨時巨額の損失を計上する可能性があります。

これは日本の今期、あるいは4月から始まる来期決算に影響を与えます。

ちょっと考えただけで、なかなか、大きな問題を持っていることがわかりますね。

では、また次回。